うまれるまえのカデンツ

音楽と女の子についての考察

さとみちゃんの携帯小説その1「別れ話」

 

 

夜9時、ふたりは険悪だった。
確かに外は大雨だけど、どんよりしてるのはそれだけじゃない。

話は私から切り出した。


「こないだの話なんだけど…」
「やっぱりその話するの?」
「その話をしに来たから…」


この時が来たか…とお互い思っただろう。
無言が続く。なんだろう…なんか…相撲?始まる前に間合いを確認するアレだ、まるで。
仕切り続ける。私達は仕切り続ける。
なんか心なしか動きも相撲っぽくなってきたような。スゥー、スゥーという力強い呼吸で少しばかり威嚇の姿勢を見せるのだ。

 


両者の気が合った。さて立会いだ。
最初に仕掛けたのは私だった。


うちら付き合ってる意味なくない?

坂本は間髪入れずに答えた。「付き合ってることに意味いらなくない?


「いやいらないわけないでしょ。」
「じゃあ俺は意味ないの?」


正直もうこんな子供な受け答えする人いらないな、とか思いながら絞り出した。
「このままだと意味なくなるわ。」


悲しいとか苦しいとかじゃない。
ただ、空虚が胸を占めた。チベットキタキツネみたいな表情で迎えた本場所。なんでも言え。かかってこい。


一方、坂本はどうしていいのかわからない、そんな顔をして…無言を経て…少し唇を震わせながら言った。
俺の嫌なところぜんぶいって?


嫌…な…ところ…。


「私シャドバはじめたばっかの時さ、坂本どんなデッキほしい?ってきいてきた時。"次元の超越かな〜"って言ったら、その数日後買ってくれたじゃん。」

「正直頼んだわけじゃないけど嬉しかったよ。まあ可愛い小物とかのが嬉しかったけど正直

「でも次元の超越が環境に合わんくなってきたし、シャドバも飽きてやらなくなって…」

「そしたら坂本すごいぐちぐち言ってくるようになったじゃん。俺が買ってやったのにシャドバやんなくなったって2000円出してやったのにってうるさくて、器小さいかよ?って」


今度は向こうがチベットキタキツネみたいな表情になってきた。間抜けな顔だな、坂本。


反論がないようなので続ける。


「あとさ、私が会う日調整して誘っても空いてないとかバイトだとか言うから、じゃあ坂本の都合合う日教えてって言ったよね?なんで誘ってくれないの?」

心なしか話を切り出す前から少し小さくなった坂本。小さな声で言った。


「違うよ…誘ってくれるの待ってたのに……。」


「………。」


私が何度誘ってもお前が予定合わせてくんないから都合合う日教えてって言ったのに????


内心何言ってんだコイツと小指を角にぶつけた時並みにだいぶイラっと来てしまったのでとっとと核心に触れる事にした。


「ちっさいの色々積み重なってもう限界。私もう坂本と別れたい。」
「………」
「坂本はさ、別れたいの別れたくないの?」


「…わかんない。」

坂本の苦しそうな声とは裏腹に私の頭の中は呆れの限界を迎えていた。

……わかんないってなんだよ。


帰る。


私はささっと必要な荷物だけ鞄に入れてドアに向かった。坂本は追いかけてこない。
もう心底どうだってよかったから振り向かなかった。

ばいばい……ドアをばたんと閉めて大雨の中、さくさくと歩いた。

歩いていく、駅に向かって。


まだそんなに経ってないうちに後ろからばしゃばしゃうるさい足音が聞こえる。
何かが走ってくる!坂本以外であることを願う。


ハナコおおあおおあおおおおおお


ぐい!っと引っ張られる腕。バランスを崩した。
うっかり傘が飛ぶ。
水飛沫。大雨。

このシチュエーションは…

 

韓国ドラマ…………。

 

ときめくわけないじゃん。ズブ濡れで最悪だよもう。


はあはあ言う坂本は言った。
こんな大雨の中帰せないから…帰らないで


うーん。
「そんな理由なら帰るよ。じゃあね」
「だめ!!」


さっきとはうって変わって
小気味良いテンポで続く。

「私と別れたくないか聞いた時わかんないって言ったじゃん!?」
「別れたいとは言ってない」
「別れたくないとも言ってないよね」
「今別れたくなくなったから!さっきは混乱してたから…」


なんだよこれ、ポケモンバグらせまくってわけわかんなくなった時の気持ちと同じだ、フリーズして動かなくなった。
人間関係では果たしてここから再起動は可能なのか。


坂本は私の手を握って言った。


「こんな俺のこと好きでいてくれるのはハナコだけだよ。」


確かにね、君はミュウじゃなかったけどすきだったよ。でもそれって蓋を開けてみれば道端のポッポが可愛いってだけだったのかも。


はっきり言うよ。
もうすきじゃなくなってきた…。


「いやでもあの…あのね…だから…」
私が疲れて黙っていたら坂本は続けた。


「俺がんばるから」
「やっぱり別れたくないよ」
「俺がこうしていられるのってハナコのおかげなんだ」
改めて気づいたんだ、支えはお前だって…。

雨音がうるさい。

「…俺ってほんとクズだよね。」


むせ返るような無言にぽつぽつ挟む言葉たちはジャブにもならずにすかすか通り抜けていくのだ。


前は俺が弱音吐いたら否定してくれてたのにもう否定してくれないんだね……。


…だって疲れたんだもん。
いらなくなってしまったんだもん…。

色んな意味で疲れたし終電あるうちにもう帰りたいの気持ちしかなくなったから本当にさよならのつもりで言った。


「別に今からでも家帰るから」


そしたら坂本から決壊したダムみたいに、堪えてたものが溢れ出して、それは涙になってたくさんの雫が顔を伝い始めて雨と一緒になって、そして彼は叫んだ。


もっかい考え直してほしいんだ!さっきまでの俺のことは忘れてよ!!!忘れてよ!!!!


忘れてよってなんやねんwである。
呆れが頂点に達した時に人は仏になるのかな。私はまだまだだ。


「よくそんなこと言えるね?こっちだってショック受けてるのわからないかな?」
「わかってるよ…」
「わかってねーわ!」

「でもやっぱり別れたくないです!
俺ガンバって大人になるから…いなくなったらだめだから…」


泣いている坂本を見て思った。
君が私を想うその感情ってなにかな。
思い込みとは違うのかな?
そんかことをふと思ったけど

疲れ切って、どうでもよくなってしまった。悪い方向に。


前ほどすきじゃなくなったけどいいの?


自分で言いながら思った。あーあ。ってこれから後悔するんだろうな。よくわかんない合わないコスメを買った時みたいに、変な音楽ジャケ買いした時みたいに、ビラ配りでめっちゃ強引に釣ってきたそんなすきでもないアイドルとチェキ撮った時みたいに

後悔するんだろうな…。


そしたら坂本は勢いよく噛み付いてくるように言った。
これから俺がもっとすきにさせるから!


なんで男ってこういう時強気なんだろうね。
もうずっと付き合ってきたのに今からなにが変わるっていうんだろう。

なんの期待もない。
なんの期待もない。

 

「…じゃあ一緒に戻ろっか。」

 

 

BAD END

 

 

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暇すぎて携帯小説を1本書き上げてしまった。